前回と同様に、もう1人のオーガニック栽培を推進している農家「中道農園」を取材した。
オーガニック栽培を始めたきっかけは?
中道農園 代表取締役
中道唯幸 さん
「このままでは長生きができないと思った。」そう語る中道さんは、身を守るために有機農法に切り替えたきっかけは、ご自身が農薬を使って体調をくずしたからだ。つまり、農薬を減らす活動の背景には、ご自身の体質があった。
窒素肥料を多く入れると、収量はよくなる。ただ病気の発生率も高まる。つまり、リスクと比例しているんです。収量を上げなくても米の価値を上げたいと思ったため、オーガニック栽培を始めたそうだ。
2000年頃から、①農薬に頼らずに生きていける米づくり②換金力の2つをテーマとして、オーガニック栽培を本格的にスタートしたのが中道農園さん。栃木県のオーガニックと水田の情報をたくさん保持している教授の方などの指南を受けて、ここまできた。信頼のおけるプロデューサーとも出会い、自社ECサイトをつくり、直販するモデルをつくった。
元気なお米の条件とは、なに?
中道さん:「まず、発芽率。野生力と言っても過言ではないが、元気でよく育つ米は発芽力が高い。そして、抗酸化力。これは数値で測定できることだが、この2つの要素が、元気な米の条件です」
「自然界から愛される作物を知ることは、自然の力を尊重することにつながる。性質も性格も、第1優先に考えると、作物も頑張れるんです」と語っていたのが印象的だった。
県内でオーガニック栽培を増やすためには?
中道さん:「まず、琵琶湖を愛している人が多いことを認識すべきでしょう。県外から来ている観光客ですら、琵琶湖が好き。滋賀県の誇りは、琵琶湖なんです。だから、滋賀県民は、琵琶湖を汚すことには大変なアレルギーがある。県内の人が応援してくれているには住民のそんな意識があるからだと思います。」
なるほど、確かに琵琶湖を守るという共通認識が団結を生んでいるし、最大のインセンティブであろう。中道社長は続けた。
中道さん:「近江米が売れるためには、美味しさと価格が比例していることを伝えるべきです。環境に優しいをウリにしているだけでは決して売れない。やはり、美味しいことを証明していかないといけないんです。そして、オーガニック栽培に取り組んでいる人のモチベーションを上げるための施策が必要なのだと思いますね。滋賀県は、高級な米を販売しているという事実や価格の根拠を説明する場が少ない気がします。だからこそ、こうした記事を通じてのコミュニケーションは、農家にとってもありがたいです」。
編集後記
オーガニックの近江米栽培は、ある種「米農家は儲かりづらい」というジンクスを打破できるほど、所得向上の道しるべとなるかもしれない。
コミュニケーションプランが曖昧で、販路イメージも乏しい6次産業化に対して、闇雲に手を出すくらいであれば、いっそ1次産業だけで収益を増大させたほうが、農家としては確実に喜ばしいことだと感じる人も多いはずだ。
2か所の農園を取材して改めて発見したことは、『販売とマーケティングの視点においてオーガニック栽培の米には、分がある』ということである。
例えば、草むしりの時間コストを数字に置き換えたとき、たとえ慣行栽培と比べて1.3倍程度の労力がかかったと仮定しても、販売単価は約2倍に膨れ上がる計算だ。「数日分の手間」は、最終的な「収益」として、きちんと素直に返ってくる。
また、オーガニックの玄米は、私を含めて“玄米食”を習慣化している生活者にとってみれば大変ありがたい農作物だ。だからこそ、リピーターとなってくれる確率が非常に高くなる。「この人の玄米でないとダメなの」というファンが生まれやすく、LTVの観点でも優位性があることは明らかだ。農薬がついた状態の玄米を口にしたくないニーズは少なからず存在する。
日本は、米の栽培に対しては世界でも優れている国だ。だからこそ、慣行栽培の白米に関しては、不味い米がない。私たちは、たいへん恵まれていることに、どこの県にいっても、たいていご飯がそれなりに美味しい。
言い換えれば、差がつきづらい。全国の県庁所在地が、ここぞと誇りをもって自県の米をプロモーションすればするほど、各県の米の特色は、生活者にとってみれば希薄化するだろう。
世の中にインフルエンサーと呼ばれる人たちが増えすぎて、1人1人のインフルエンサーが稼げなくなっていく現象と相似する。
もはや、「どんな著名タレントがお米をPRしているのか?」合戦になっている。テレビCMやお米のイベントを催して、人々の目につき味わってもらうための戦術の試行錯誤。つまりは、広報費(資金力)の差が、お米の人気度の差になっていることも否めないだろう。
ただ、玄米を食べる者からすれば、そこはどうだってよいことである。
むしろ、美味しくて、安全で、体に優しい玄米を栽培してくださる農家さんを応援する使途に、もしくはオーガニック農法を継続してくれる農家さんが増えるような活動に対して、莫大な資金を少しでも充当してほしいと感じる。有機栽培の玄米は、農薬を体に入れるリスクが圧倒的に低くなり、人々の健康に寄与するからだ。
オーガニック栽培の玄米は作りづらいかもしれない。ただ、農家にとっても手間がかかるからこそ、ビジネスとしても勝機がある。
人がやりたがらないコトを率先してモノづくりをするからこそ、お金にもなる。誰かの「欲しい!」を満たしているからこそ根強いファンもできることになる。
さて今回の取材を通じて、オーガニック農業を通して、ビジネスの根源を再確認できた気がした。関係者の皆様、貴重な時間を有難うございました。
そして、“農業の営みと琵琶湖を中心とする環境の保全を両立する”というコンセプトを掲げる滋賀県。実にチャレンジングな課題に取り組んでおられて、感心が止まらない。本当に応援をしたいと思いました。
『THE SEAMLESS JOURNAL』編集部