生物の多様性の保全や地球温暖化、そして予測のつかない社会情勢…。これらに対応するために、持続可能な農業を進める必要性は高まっている。その中で全国ではじめて「みどりの食料システム基本計画」を策定するなど、環境にやさしい農業を推進している県がある。それが、滋賀県だ。
滋賀県は、地球環境問題に対応する生産性の高い「環境こだわり農業」の推進や、環境こだわり農業の柱としてオーガニック農業を拡大することに重きを置いてきた。
特にオーガニック栽培では、米や茶の作付面積が大きく拡大。実際に、オーガニック農業実施面積が2021年度では355ha。滋賀県は、これを2026年度には500haまで促進させることを目標としている。
特に、米では新品種「きらみずき」をオーガニック栽培の有力品種の一つとして推進しており、量販店において「オーガニック近江米」の販売が開始されるなど取組が進みつつある。今日から連続する3つの記事では、そんな滋賀県のオーガニック農業の取り組みを特集したものだ。滋賀県庁や関係機関の担当者や米の生産者を取材した。
すべての活動は、愛する琵琶湖のために。
農政水産部 みらいの農業振興課
みどりの食料戦略室 環境こだわり農業係
駒井 佐知子さん
まず、県庁にいる駒野さんにお話しを伺った。駒野さんが、みらいの農業振興課に所属したのは2022年4月。約50人前後の部署の中で、駒野さんは米、果樹、野菜、麦などの農産物の生産において「環境こだわり農業」の啓蒙に努めている。
「環境こだわり農業」とは、2003年に「環境こだわり農業推進条例」が制定されてから本格的に動き始めた農法。県民が一体となって、農薬や化学肥料を減らした農業について向き合い、琵琶湖の保全に取り組みを始めたことがきっかけだった。
事の発端は、農業や工業用水の中で使われる「窒素」や「リン」が琵琶湖に流れてしまうことで、琵琶湖にて暮らす生き物の命を支える水の汚染が、1977年に社会問題となったからだ。
「私たちは作業負担や環境負荷の軽減等を図るためスマート農業技術等を推進することはもちろん、環境こだわり農業の強みを生かした流通・販売の強化を進めています」と、駒井さん。
地道な取り組みが、実るとき
現在では、環境こだわり農産物は、栽培面積は14,000haを超えており、とりわけ滋賀県の主力品目である米では作付面積の45%を占めるに至った。
県内の化学合成農薬の使用量は、2000年と比べて約40%も減少。流出の負荷量は窒素で41%、リンで27%削減が確認されて成果がはっきりと出ている。
「今後は、やはりブランド力の向上です。琵琶湖の保全と共にオーガニック農業の取り組みを更に普及していきたい」と熱い眼差しを向けられていた。
近江米振興会の総括指導員、河瀬登さんが…アツイ。
近江米振興協会 総括指導員
河瀬 登さん
河瀬さんは、滋賀県の米、麦、大豆についてプロモーションを促進する部隊「近江米振興協会」の総括指導員だ。米では「きらみずき」、「みずかがみ」、「オーガニック近江米」等を各用途に合わせ作付けを推進している。
河瀬さんは、定年を過ぎた年齢とは思えないほどのパワフルで、情熱的な人。
世界農業遺産に認定された、琵琶湖システム
「琵琶湖と共生する農林水産業(琵琶湖システム)」が、2022年7月に世界農業遺産*に認定された。
ほかにも、世界農業遺産登録を機に環境こだわり農業の取組を全国へ発信を強化することや、魚のゆりかご水田米のストーリー性をPRし、消費者への共感と信頼を醸成していることに成功している。
*世界農業遺産…世界的に重要な農林水産業を営む地域を国連食糧農業機関(FAO)が認定する制度。
伝道師たちの背中が物語る、滋賀県への愛情。
河瀬さん:「滋賀県には美味しい米がたくさんある。そして、琵琶湖システムや、魚のゆりかご米など先駆的な取り組みをしている。これからは、オーガニックの特性を生かし、健康志向の消費者ニーズに対応した商品開発を支援していくわけだが、まずは認知度向上が最優先だと思っている。滋賀県も米どころであることを、記事を通じても語ってもらいたい。」
玄米が発芽するくらいの熱量で意気込んでいた、お二人の熱意が伝わってきた。では、実際にオーガニックの米栽培にはどのような課題があるのだろうか?次回の記事では、実際の現場で米農家2名から話を伺い、まとめてみた。
→【取材】滋賀県のオーガニック近江米の課題と「環境こだわり農業」を深堀り#2 へつづく
#滋賀県#オーガニック#近江米#環境こだわり農業